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山口地方裁判所 昭和27年(行)2号 判決 1962年12月26日

原告 田村チヨコこと田村チヨ

被告 徳山市長

主文

原告の第一次的請求はこれを棄却する。

原告の第二次的請求については右訴はこれを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者双方の求める裁判)

一、原告の申立

(1)  第一次的申立

被告が原告に対し昭和二四年一〇月一九日付徳復換一七四号をもつてなした徳山市大字徳山字幸町三二二六番地宅地一一七坪の換地予定地として同市大字同字同街区番号ブロツク二一C地番一二を指定する旨の換地予定地指定処分は無効であることを確認する。

(2)  第二次的申立

右換地予定地指定処分はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告の申立

(1)  本案前の申立

本件訴は何れもこれを却下する。

(2)  本案に関する申立

原告の請求は何れもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(原告の主張)

一、請求の原因

(一)  徳山市大字徳山字幸町三二二六番地宅地一一七坪(但し登記簿上)(以下単に本件従前の土地という)は原告の所有であり、原告は同所において酒舗を営んでいたものであるところ、右土地は特別都市計画法に基く特別都市計画事業徳山市第一次土地区画整理事業第一区に属し、右区画整理の施行に伴い被告は原告に対し昭和二四年一〇月一九日付徳復換第一七四号をもつて、従前の土地につき同市大字同字同街区番号ブロツク二一C地番一二(以下単に本件換地予定地という)に換地予定地を指定した。

(二)  しかしながら、右換地予定地指定処分には次のとおり重大且つ明白な違法事由があるから無効である。仮にそれが無効事由に該当しないとしても取消されるべきものである。

(1) 公簿上の地積と実測地積との相違等について、

本件従前の土地の地積は公簿面において一一七坪であるが、実測地積はこれより広く、一四一坪六合で二四坪六合の増歩を有している。原告は被告に対し本件換地予定地指定処分を受けるに際し、本件従前の土地につき、地積の測量をしたうえ実測地積に基いて換地予定地の指定をなすべきことを要請したが、被告はこれを無視し、公簿たる土地台帳記載の地積一一七坪に基き換地予定地指定処分をなした。しかも本件換地予定地は前記指定の通知書によれば、その地積は八〇坪とあるが、その実測地積は七六坪に過ぎないものであり、これを要するに本件換地予定地指定処分は原告の財産権を侵害する違法な処分というべきである。

(2) 隣地に比し処分が著しく不公平であること

換地予定地指定処分は換地予定地と従前の土地の位置、地積、利用状況、環境等が照合するようになされねばならないのに拘らず、本件換地予定地は本件従前の土地に比較し、実測地積において前記(1)の如く六五坪の差積があるうえ、間口は著しく縮少され、前記営業のためには極めて利用価値に乏しくなつたのにひきかえ、本件従前の土地と同一区画整理施行地区内において、原告の分を除く他の殆んどのものは減積されずかえつて従前より広い土地或は利用価値の大なる土地を換地予定地として与えられている。かかる著しく不公平な本件換地予定地指定処分は違法である。

(3) 換地予定地指定処分が一部未了であること

原告は本件従前の土地と同じく第一次区画整理事業第一区地域内に徳山市大字徳山字寺町三七一八番の六宅地四六坪七合四勺及び同所三七一八番の一一宅地一坪五合一勺を所有し、右両地は何れも本件従前の土地と同時に区画整理の対象となり、昭和二三年六月一日徳山市告示第二九号をもつて、右寺町三七一八番の六につき同市大字徳山字新町三七一八番の六を、右寺町三七一八番の一一につき同市大字徳山字新町三七一八番の一一をそれぞれ換地予定地に指定する旨の告示がなされたところ、その後原告に対し、右両地につき換地予定地指定通知がなされないうちに、昭和二五年一月一四日被告の求めにより原告は訴外三牧貞男と連署で、右両地と右訴外人所有の同市大字徳山字幸町三二三一番の二宅地四九坪八合四勺との土地交換願を被告に提出し、右土地交換が行われたのであるが、右土地交換後においても依然として原告に対し前記寺町三七一八番の六及び同番の一一に対する換地予定地指定通知がなされずに現在に至つていて、未だに不確定な状態におかれている。しかして、同一区画整理施行地区内における各換地予定地は、それぞれ独立性を有しながらも土地区域整理の目的ないし性質に鑑み寧ろ相互に有機的連関を有し、全一体としての全換地予定地の一部分を構成するものである。従つて右全換地予定地の中の一部について当然指定さるべき換地予定地が指定処分を受けずに未確定の状態に放置されているならば、たとえその余の部分についての指定処分がすべて完了したとしても、結局これのみでは、全一体的になさるべき区画整理の目的を達成することはできない訳であるから既になされた換地予定地指定処分も違法たらざるを得ないものである。よつて、本件換地予定地指定処分はこの意味においてもまた違法である。

二、被告の本案前の抗弁に対する答弁

(一)  原告が訴願法八条一項所定の訴願期間を経過した昭和二七年一二月三日に至つて異議申立をなしたことは認める。然しこれによつて本件訴を不適法ならしめるものではない。何となれば、

(1) 本件訴はそもそも訴願前置を要求されていないものであるから、右異議申立が訴願期間を徒過したか否かは問題とするに足りない。即ち、本件換地予定地指定処分は特別都市計画法に基いてなされたものであるところ、同法二六条により準用される都市計画法二六条によれば処分に不服あるものは直接裁判所に出訴し得ることとなつている。

(2) 仮りに右の理由がなく本件訴につき訴願前置が要求されているとしても、本件の場合訴願法八条三項所定の訴願を受理するにつき宥恕すべき事由が存在する。即ち、原告は本件換地予定地指定処分を受けた後直ちに被告に対し異議申立をしようとしたところ、被告は甘言を弄して原告をしてその挙に出ることを思い止まらしめたものであり、又異議申立に至るまで当事者間にこの点につき解決のための示談が続行されたものであつて、これらの事情は右の宥恕すべき事由に該当する。従つて前述の異議申立(訴願)は適法に提起されたものであるところ、右提起の日から三ケ月を経過した今日に至つてもこれに対する裁決がない。従つて本件取消請求は、行政事件訴訟特例法二条但書により訴願の裁決を経ずに出訴しうる場合に該るものというべきである。

(二)  本件訴は本件換地予定地指定処分を受けた後約二年五ケ月を経過して提起されたことは認める。然しながら前記違法事由(3)において述べた理由により原告に対する本件換地予定地指定処分は未だ適法には完了していないから、本件訴は行政事件訴訟特例法五条の期間を経過して提起されたものではない。

(被告の主張)

一、本案前の主張

(一)  原告がその主張のとおり本件従前の土地を所有していたこと、右土地が原告主張の区画整理事業第一区に属し、右区画整理事業が施行され、被告が本件従前の土地について原告主張のとおりの換地予定地指定処分をしたことは認める。

しかして、本件換地予定地指定処分は、特別都市計画法一三条に基いてなされたものであるが、右処分については同法二六条により準用される都市計画法二五条一項によつて訴願を許すと定められているのであるから、行政事件訴訟特例法二条に則り本件換地予定地指定処分を違法であるとして、その無効確認ならびに取消を訴求するには、訴願法八条一項所定の期間である行政処分を受けた後六〇日以内に訴願を提起し、その裁決を経由しなければならないのに、原告は右所定期間内に訴願を提起せず、本件換地予定地指定通知を受けた後三カ年以上も経過した昭和二七年一二月三日に至つて初めて被告に対し、異議申立書と題する書面をもつて不服を申立てたに過ぎないのであるから、原告の本件換地予定地指定処分の無効確認ならびに取消を求める訴はいずれも訴願を経ざる不適法なものとして却下さるべきである。

(二)  仮りに本件換地予定地指定処分の無効確認ならびに取消を求める訴訟について、特別都市計画法二六条、都市計画法二五条二項、二六条により訴願の裁決を経ずに直接裁判所に出訴できるものであるとしても、その出訴期間については行政事件訴訟特例法五条一項所定の制約を受けるものと解すべきところ、原告は本件換地予定地指定通知を受けた後約二年五カ月を経過した昭和二七年三月三日に至り、初めて本訴を提起したものであるから本件換地予定地指定処分の無効確認ならびに取消を求める本訴請求は、所定の出訴期間六カ月を遵守しなかつた不適法のものとして却下さるべきものである。

二、本案についての答弁

原告主張の請求原因事実中既に答弁したほか、

(一)  原告主張の違法原因(1)について

本件従前の土地の土地台帳地積が一一七坪であること、本件換地予定地の地積(但し後述の如くこれは概算地積である。)が八〇坪であること、本件換地予定地指定処分が本件従前の土地について土地台帳地積を基準として行われたものであることはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。

本件換地予定地指定処分は、昭和二二年二月五日施行の特別都市計画事業徳山土地区画整理施行規程に基いてなされたものであるが、右施行規程第二条によれば、換地交付の標準となるべき従前の土地の地積は、昭和二〇年八月一五日現在の土地台帳地積による旨規定されているのであつて、これに基き、被告は本件従前の土地の地積につき同日現在の土地台帳地積一一七坪を基準として本件換地予定地指定処分をなしたものであつて何等違法なところはなく、又本件換地予定地八〇坪とあるのは概算地積であり、これと実側面積との間に多少の誤差があつてもこれをもつて、本件換地予定地指定処分が違法であるということはできない。

(二)  違法原因(2)について、

本件換地予定地が、本件従前の土地に比較して多少の減歩があり、又間口が狭くなつていることは認めるが、その余の事実は否認する。右は道路の幅員を広げる等公用地のための潰地から来たした結果であつて区画整理の目的達成のため己むを得ないところというべく、決して原告のみに対して不公平な取扱いをしたものではなく、これがため本件換地予定地指定処分を違法となすことはできない。

(三)  違法原因(3)について、

原告主張の事実はこれを認めるが、その余の法律的主張はこれを争う。

換地予定地指定処分の効力は、それぞれ独立し他の指定処分に影響を及ぼすべき筋合のものではなく本件土地以外の土地の換地予定地指定処分が完了していないからといつて本件土地のそれが違法となるものではない。のみならず徳山市大字徳山字幸町三二三一番の二宅地四九坪八合四勺に対しては訴外三牧貞男所有当時の昭和二四年九月二九日徳復換第一八一号を以て同人に対し街区番号ブロツク二一C地番一一の換地予定地(但し同訴外人所有の他の従前の土地との合併換地予定地)を指定しているものであり、原告がその主張のとおり同訴外人との間で被告の諒解のもとに前記寺町三七一八番の六、同番の一一との交換をなすことにより、原告は右街区番号ブロツク二一C地番一一の上に換地予定地としての権利を取得したものであつて(右合併換地予定地のうちで幸町三二三一番の二に対する換地予定地の範囲を特定するのは、原告と右訴外人との間で処理さるべき問題であつて、被告の関知するところではない。)寺町三七一八番の六同番の一一は既に原告の所有を離れているものであるから被告が原告に対しこれにつき更に換地予定地の指定処分をする必要はなく、この点に関して原告の主張するような瑕疵は存しない。

(証拠省略)

理由

一、先ず、原告の無効確認請求に対する被告の本案前の抗弁について考えるに、行政処分の無効確認を求める訴については、行政事件訴訟特例法二条及び五条は適用されないからこの点に関する被告の主張は理由がない。

二、よつて進んで本件行政処分が無効であるか否かにつき原告主張の違法事由について順次審究する。

(1)  「公簿上の地積と実測地積との相違」との主張について

成立に争いのない乙第八号証によれば本件換地予定地指定処分は、特別都市計画法施行令一一条により制定された特別都市計画事業徳山土地区画整理施行規程(昭和二二年二月五日施行)二条によれば換地交付の標準となるべき従前の地積は、原則として、昭和二〇年八月一五日現在の土地台帳地積に拠るべきものと定められていること、が認められ、他に右認定を左右する証拠はない。又換地予定地指定処分の後に行われるべき本換地処分において、原告主張の如き差積が生じたときは、これに対し、実際の土地の価格に相当する代償が交付さるべきものであることは、特別都市計画法及び前示徳山土地区画整理施行規程の規定するところである。そうすると被告が土地台帳地積を基準として本件換地予定地指定処分をしたことは前示土地区画整理施行規程に従つた処分であつて何ら違法の廉はなく、又原告主張の地積の差は金銭補償により解決されるべき問題であるから、これらの事情は本件換地予定地指定処分を無効とすべき理由とはならなく、原告のこの点に関する主張は採用できない。

(2)  「処分が不公平であること」との主張について、

成立に争いのない甲第一号証の六、乙第一・二・三号証及び証人田村正男の証言によれば、本件従前の土地は、徳山市の中心街に位し、本件換地予定地として指定された徳山市大字徳山字幸町街区番号ブロツク二一C地番一二は本件従前の土地の上に位置し、その間口は二四尺六寸あるがそれは従前の土地の間口より五尺二寸五分狭くなつたに過ぎないことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。右認定によると本件換地予定地はいわゆる現地換地であるから、飛換地の如く極度に利用価値の減少を来たすということもないこと、(1)で述べた如く減歩は補償されることを勘案すれば、仮りに土地区画整理の同一施行地区内の他人所有の宅地が換地予定地指定処分によりその利用価値に何らの影響を蒙らなかつたとしても右程度の間口縮少による利用価値の減少は区画整理の目的達成のため已む得ないところというべきであつてこれにより本件換地予定地指定処分を無効ならしめる重大且つ明白な瑕疵があるということはできない。よつて原告の右主張も採用できない。

(3)  「換地予定地指定処分の一部が未了であること」との主張について、

原告主張の如く仮りに本件従前の土地と別個の土地につき換地予定地指定未了の土地があるからといつて、既に完了された本件指定処分を無効とすべき理由はないから、右の主張もまた失当たるを免れない。

以上の次第によつて原告の本件換地予定地指定処分の無効確認を求める第一次的請求は理由がないからこれを棄却する。

三、よつて進んで原告の第二次的請求(抗告訴訟)について考察することとする。

先づ被告主張の本案前の主張について考える。

特別都市計画法二六条により準用される都市計画法二五条二項に定める訴願事項についての制限は、行政裁判所の廃止された後でも「行政裁判所」とあるを単に「裁判所」と読みかえて尚有効に存続するものと解すべきであるが、右制限は同条項によつて明かな如く主務大臣に対する訴願のみであつて、都道府県知事等に対する訴願は右制限に含まれない。而して右二五条にいう訴願とは訴願法にいう訴願即ち直接上級行政庁に対する不服申立であると解されるから、本件換地予定地指定処分の如く市町村長のなした行政処分に対しては、地方自治法一五〇条によつて都道府県知事に対し訴願をなすべきものである。従つて右行政処分の取消を求める訴は行政事件訴訟特例法二条により訴願前置の建前がとられていることとなる。

原告が本件換地予定地指定処分の通知を受けた昭和二四年一〇月一九日より訴願法八条所定の六〇日の期間内に訴願を提起せず、昭和二七年一二月三日に至り異議申立書と題する書面により被告に対し不服申立をなしたことは当事者間に争いがない。原告は本件換地予定地指定処分後、直ちに被告に対して不服申立をなそうとしたところ被告係員の甘言にだまされて、訴願期間を徒過したものであり、又異議申立までは示談継続中であつたから訴願期間を徒過しても訴願を受理するにつき宥恕すべき事由が存在したから、前記異議申立は適法に提起されたものであるところ、右提起後三カ月を経た今日に至るまで訴願の裁決がなされていないから、本訴は適法であると主張する。

よつて考えるに、

(一)  前述の如く本件行政処分に対する訴願の相手方は県知事であるところ、これに対して訴願をなしたことは原告の主張しないところであり、一件記録を精査するも見当らないところである。もとより訴願は処分庁たる行政庁を経由して提起すべきものであり、且つ処分庁としては提出された不服申立書が異議申立書と題されていても申立人の意図するところを汲んでそれが訴願書と解される限りそのように処理すべきであるが、成立に争のない甲第一三、一四号証によると、原告が昭和二七年一二月三日に提出した前記異議申立書は被告宛になつていたこと、そのため被告は昭和二八年二月一一日附回答書を以て右申立に対し詳細なる回答をしていることが認められ他に右認定を左右するに足る証拠はない。而して右回答書に対し原告が更に不服申立その他訴願と目すべき書面を提出した事実はこれを認めるに足る証拠はない。

(二)  以上の次第で原告が本件行政処分に対して訴願書を提出した事実は認められないが、仮りにこの点で一歩を譲り原告の提出した右異議申立書を以て被告がその上級行政庁に対する訴願書の提起ありたるものとして取扱うべきであるとしても、原告主張の前記宥恕すべき事由については原告の立証しないところである。(却下せる証人及び本人尋問の取調請求の尋問事項も参照の上)

右の次第で本件抗告訴訟が訴願裁決を経ないで提起できるとの原告の主張は理由がない。

以上の理由により原告の第二次的請求は訴願前置の要件を欠く不適法な訴であるから却下されるべきものである。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 竹村寿 井野口勤 中村行雄)

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